マンション建て替え費用の相場はいくら?住民も費用負担する?

築年数が増えていくにつれて、マンションの建て替えを検討される方も多いのではないでしょうか。

管理組合などにも議題が上がりやすい話題ではありますが、居住者ほぼ全員の同意を得る必要があるため、実際には実現のハードルが高いものとなっています。

この記事では、マンションを建て替えるために必要な手続きや、マンション建て替えの費用相場を紹介します。

建築基準法や区分所有法など、法律によって住民の権利を配慮しながら手続きを進める必要がありますので、マンションの建て替えを検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

目次

マンションを建て替える3つの理由とは?

マンションに限らず、建物は時間が経つにつれて老朽化が進み、建て替えの検討を求められる場合があります。

マンションを建て替えるべき理由として、以下3つが挙げられます。

  • マンションの老朽化
  • マンションの寿命
  • 耐震機能を見直すため

これらの課題を解決するため、古くなったマンションは建て替えの判断を迫られます。

それぞれの理由について、詳しく見ていきましょう。

マンションの老朽化

マンションは住み続けていると機能面でマンションの劣化が始まります。耐震機能などの問題が生じるほか、経年劣化による壁や床にひび割れは生活にも大きな影響をもたらします。漏水や雨漏りなどの問題はこのような老朽化によって発生するケースがほとんどです。

また老朽化に伴い経済的な価値も減少しますから、結果としてマンションの売却価格も下がります。

そのため、建て替え費用を検討する訳ですが、負担する頃には負担するための資金源が居住者、住居に無い可能性もありますから、管理組合で中長期的に検討協議、対策をしていくべき項目ということになります。

マンションの寿命

国税庁が発表している固定資産の耐用年数によると、住宅用マンションの寿命(耐用年数)は47年とされています。

建物の種類耐用年数
木造の住宅22年
鉄筋コンクリートの住宅47年

出典:期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新 による価値向上について|国土交通省

耐用年数(建物/建物附属設備)|国税庁

耐震機能を見直すため

古いマンションを放置していると耐震機能が落ちていきます。耐震機能とは建物の強度を表す機能で、耐震機能に優れたマンションは地震に強い建物といえます。

耐震機能が低い建物では大きな地震が落ちた時に住民の安全を確保できませんから、マンションの建て替えによる耐震機能の見直しを行う必要があるのです。

マンション建て替えの実施状況

マンションの建て替えが実施されている件数は実際にどれだけあるのでしょうか。

2022年の実績ではマンションの建て替えは全国で300件ほどと、それほど多くありません。また、年間で新しくマンション建て替えが実施されるのは年間で数件ほどです。

マンションの建て替え件数が少ない理由として考えられることは、住民の同意を得る必要があるという点です。住民の費用面の負担が大きいため4/5の可決が得られず、実際にマンションの建て替えに至らないケースが多数を占めます。

【マンション建て替えの実施状況】 マンション建替えの実績は累計で183件、約14,000戸(建替え後約26,000戸)(平成25年4月時点)に留まる。
出典:老朽化マンションの建替え等の現状について|国土交通省   ※平成25年(2013年)にマンション建て替えを実施中の建物は24件、実施準備中の建物は11件。

マンション建て替えは住民も費用負担する?しない?

一般的にはマンションの建て替え費用は住民が負担するものです。

ただし、一部の条件を満たすマンションは建て替えによって利益が生じるため、マンションの建て替え費用を賄える場合があります。

ここでは、具体的にどのようなケースで住民負担が発生するのかを見ていきましょう。

住民の費用負担がないケース

マンション建て替えで住民の費用負担が発生しないのは以下のケースとなっています。

  • 容積率が大きい
  • 売却価値がある

これらのケースではマンションの建て替えでマンションの価値が高まるため、費用負担分を賄えるのです。

容積率が大きい

建て替えによって容積率が増えると、販売できる部屋が増えたり、居住面積が増加するため、マンションの資産価値が相対的に高くなりやすい傾向にあります。

【容積率とは】 マンションのフロアの床面積を合計したもの。 「建物の延べ面積(延べ床面積)の敷地面積に対する割合」で計算されるものです。

売却価値が高い

築古の物件が新築の物件になるわけですから、土地の価格が元々高いエリアなどは、マンションの売却益を取りやすいということになります。

多くの場合、建て替えの費用を差し引いても利益が出るよう設計してから施行することが多いため、場合によって一時立て替えが必要なケースはありますが、マイナスになるケースはほぼ無いといえるでしょう。

住民の費用負担が発生するケース

このように建て替えによってマンションの建て替え費用を賄えるケースは限られています。多くの場合では、住民がマンションを建て替えるための費用を負担することが求められます。

マンション建て替えで住民の費用負担が発生するのは以下のケースです。

  • 容積率が低い
  • 売却価値がない

容積率が低い

容積率が小さいと、現状と比較して面積は増えず、居室数もそのままになるので
ただ新築の建て替えを行うことになりますので、市況により収益化できるかどうかが分かれます。

そういったリスクがあるため、住民の費用負担が必要なケースが多いということになります。

売却価値が低い

容積率が高くても、売却価値が低ければマンションの建て替え費用を賄えません。
買い手が見つからなければ建て替えによる利益が出ないため、建て替え費用は住民が負担します。

マンション建て替えの費用相場

マンションの建て替え費用の相場は1,000万円強とされています。マンションは建て替えるだけでなく、完成時や仮住まいの住居を手配することにもお金がかかります。

トータルの建て替え費用としては1,500万円以上かかるのが一般的です。

またマンションの大きさや立地によって、建築年数=待機年数が増減しますので管理組合にきちんと確認を取ることにしましょう。

マンションを建て替える際にかかる費用として、以下の項目が挙げられます。

  • 建物の解体費用
  • 完成時の費用
  • 仮住まいの家賃

建物の解体費用

マンションを建て替える時は古い建物を解体する費用がかかります。解体費用の相場としては、一戸あたり200万円が相場です。

完成時の費用

マンションを解体した後は新しい建物を作る費用がかかります。

建設業者を選定し、建設費用や設計費用、事務費用などが対象の費用です。

仮住まいの家賃

マンションを建て替えるとき、住民が仮住まいに引っ越すための費用がかかります。

そのため、仮住まいの家賃や引っ越しの費用などが必要です。

「修繕積立金」は使えない?

「修繕積立金」はマンションの建物部分や設備を修繕するために積み立てるお金のことです。住民は毎月少しずつ修繕積立金を負担し、建物を修繕する費用に当てられます。

例えば、老朽化した壁や床を修繕する際に修繕積立金が使用されます。

そのため、修繕積立金は「修繕」のために使うものであり、建て替えの用途では使えません。

【マンションの建て替え費用と修繕積立金の違い】
建て替え費用:マンションを新しく建て替えるためにかかる費用
修繕積立金:既存のマンションを修繕するための費用

マンションを建て替える時の注意点

マンションを建て替えるポイントや注意点として、以下に注意する必要があります。

  • 住民の同意を得る必要がある
  • 区分所有法
  • 建て替え費用の負担が大きい
  • 法律上、建て替えられないマンションがある

それぞれのポイントについて、詳しく見ていきましょう。

住民の同意を得る必要がある

区分所有法によると、マンションを建て替えるにはマンション住民の5分の4以上の同意が必要とされています。

住民の同意を得られない場合、建て替えはできません。

特に、マンションの建て替えは住民負担が大きく、建て替え中の仮住まいを手配しなければならないなど、反対の声が大きいことが多いです。

そのため、住民の同意を得ることに苦労することが多くなっています。

区分所有法

区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)とはマンションなど集合住宅に関して権利関係や管理運営に関する事項を定めた法律です。

区分所有法の第62条では建て替えの決議について、区分所有者(住民)のうち5分の4以上の同意が必要と定められています。

区分所有法 第62条(建替え決議): 建て替えの決議には全員同意あるいは集会による決議が必要。 決議には区分所有者数及び議決権数の5分の4以上の賛成が必要。

なお、「5分の4要件」は政府や国土交通省によって、今後基準が引き下げられる議論が進められています。

参考:老朽マンション、建て替え容易に 多数決要件の緩和検討―葉梨法相、区分所有法改正を諮問|時事ドットコム

建て替え費用の負担が大きい

住民の反対が大きい理由として「建て替え費用の負担が大きい」ことが挙げられます。

先ほども紹介したように、マンションの建て替えには1戸あたり1000万円を超える建て替え費用の負担が生じます。住民に大きな費用負担が生じるということは、建て替えを行うための大きな障壁となります。

法律上、建て替えられないマンションがある

法律によって建て替えが許されないケースもあります。

特に、1980年までに建てられた古いマンションは「既存不適格」のため建て替えが認められません。

既存不適格(建築基準法)

「既存不適格」とは建築時には問題がなかった建物でも、法改正や土地計画区域等の変更により、現在では問題がある建物のことです。

現行の建築基準法によって既存不適格が認められる建物は建て替えが認められません。

建て替えや増築をする場合は過去の法令ではなく、現行の法令に準拠した基準を満たす必要があります。

マンション建て替えの流れ

マンション建て替えの流れとしては、以下の事項を整理して進めます。

【マンション建て替えの流れ】
・建て替えの検討

・建て替え計画の作成

・住民の同意を4/5以上得る

・建て替えの実施

建て替えの検討

まず、マンションを建て替える必要があるのかどうかを検討します。

老朽化の状況を判断し、安全性が十分に確保できているかどうかを判断します。建て替えの協議は理事会や管理組合などで行うことが一般的です。

「建て替え」か「修繕」か

「建て替え」ではなく「修繕」で対応することも検討します。
修繕はマンションを取り壊さず、建設した当初の水準に戻すための工事です。

修繕で住めば工事費用は安くなりますが、老朽化の根本的解決にならないことがあります。

建て替え計画の作成

建て替えが決まったら、具体的な建て替え計画を作成します。計画においては建築会社の選定、新しいマンションのデザイン、行政との協議などが含まれます。

住民の同意を4/5以上得る

建て替えを決定するには住民の同意を4/5以上得る必要があります。

住民にマンションの建て替えに関する説明会などを実施し、同意を得なければなりません。
区分所有者に対して十分な説明を実施したうえで、議決権者のうち5分の4以上の賛成を貰う必要があります。

建て替えの実施

建て替えが決まったら実際に建て替えを実施します。

マンションの建て替え期間中には住民の仮住まいを手配する必要があります。

マンション建て替え費用の相場を知っておこう

老朽化したマンションは耐震性の問題などで建て替えを検討したいところですが、現実には建て替えのハードルは高く、実際に建て替えが実施されている件数は少ないです。

建て替えの費用相場は1戸あたり1,000万円で、建て替えの決定には住民の5分の4以上による同意が必要であるという状態ですので、かなり前もって準備に取り掛かる必要があります。

マンションの建て替えは複雑な法律が関係しますので、不動産管理の専門家に相談することをおすすめします。マンション建て替えの正しい手続きを知って、適切なマンション運営をしましょう。

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